王妃たちの朝鮮王朝 書評 気をつけて読むべし!
2012/11/26
王妃たちの朝鮮王朝は女性歴史学者尹貞蘭(ユン・ジョンナン:윤정란)氏が2008年6月20日に出版した朝鮮王妃500年史(チョソンワンビ オベンニョンサ:조선왕비 오백년사)の完訳本です。
訳者は数々の韓国関連の翻訳本を手がけている金容権氏です。
以前、この本をもとにNHKBSで同名の番組が放送されましたが、その時にも違和感を覚えました。詳しくは王妃たちの朝鮮王朝 検証を参照してください。
今回改めて訳本を読んだので、簡単に書評をしたいと思います。
まず、王妃の視点から500年に渡る朝鮮王朝をストーリーテリングする手法と着眼点に感服しました。また、一般向け教養本とはいえ、その内容の充実度も素晴らしいと思います。
けれど、残念な箇所も数多く見受けられました。以下に何点かピックアップします。
1.誤字や表記ゆれがあまりにも多い
特に後宮や女性の人名の漢字に誤りが多く見られました。たとえば、
- 第11代中宗(チュンジョン)の後宮・敬嬪朴氏(キョンビン パクシ:경빈 박씨)の「敬」の字が「慶」に
- 第15代光海君(クァンヘグン:광해군)の生母・恭嬪金氏(コンビン キムシ:공빈 김씨)の「恭」が「公」に
- 第22代正祖(チョンジョ:정조)の後宮・宜嬪成氏 (ウィビンソンシ:의빈 성씨)の「宜」の字が「儀」に
- イ・サンの叔母・和緩翁主(ファワンオンジュ화완옹주)の「緩」の字が「完」に
読みは同じではあるものの間違った字を当てていたり、同一人物に2種類の漢字を当てていることもありました。そのほとんどは最初に出てきた漢字が間違っていました。また、ヨミガナの表記ゆれもいたるところに散見されました。すべてを詳細に調べれば30箇所以上はあると思います。
2.内容の誤り、何を説明しているのかわからない箇所が4箇所以上
主語が途中で入れ替わったり、親子の経歴がミックスされていたり、訳の分からない箇所がありました。一つ例を上げると
「思彦君(ウンオングン)には思悼世子(サドセジャ)の異腹弟で常渓君(サンゲグン)、豊渓君(ポンゲグン)、全渓君(チョンゲグン)の三兄弟がいた」
という文がありました。まず、思彦君は「思」ではなく「恩」の字で恩彦君です。読みも連音化して「ウノングン」としたほうが良いでしょう。
そして、この文書はまったくもってよくわからないのですが、恩彦君の父が思悼世子です。ですので恩彦君は正祖(チョンジョ)イ・サンの異腹弟です。また、三兄弟は恩彦君の子で前者二人が同腹、後者一人が異腹の兄弟です。
この事実から照らしあわせても、カッコで括った文章がへんてこなのがわかると思います。
あえて正解を書くなら「恩彦君は正祖の異腹弟で子に・・・」となるでしょう。
3.小説の内容が史実のように書かれている
第26代高宗(コジョン:고종)の父・興宣大院君(フンソンデウォングン:흥선대원군)李昰應(イ・ハウン:이하응)について「喪家の犬(サンガッチベ ケ:상갓집의 개)」という言葉とともに紹介している件があるのですが、この言葉は1930年代に朝鮮日報で連載されて大人気となった金東仁(キム・ドンイン:김동인)の長編小説・雲峴宮の春(ムニョングン エ ポム:운현궁의 봄)に出てきた表現で、史料に基づいたものではありません。
これを見た時にはさすがに愕然としました。本も終わりにさしかかったところに、小説の内容があたかも史実のように書かれていたからです。この調子で最初から記述されていたら、この本は教養書ではなく小説です。
このように王妃たちの朝鮮王朝は範囲が500年に渡るため、読む方のリテラシーも問われるのはもちろんなのですが、いたるところに罠のように誤字や誤記述が出てくるので、個人的には読んでいてものすごく疲れました。¥4830という非常に高価な本ですので、惑わされずに読んでいける方以外にはおすすめできません。
はっきり言って、内容が非常に濃いので、このようなミスはもったいないです。韓国では11刷まで増刷され8万部のベストセラーになっているとのことですが、増刷しても誰も気がついてないのでしょうか?それとも翻訳段階でミスを犯しているのでしょうか?
そのあたりは不明ですが、正直ここまで誤字の多い本は初めてです。2・3個ぐらいなら出版社に教えて差し上げようと思いますが、さすがに数十となると、ただただ出版社の能力に呆れるばかりです。韓国の本の翻訳だから韓国式にあまりチェックせずに出版したということはないと思いますが、今一度しっかりと校正してほしいものです。
また、同時に思ったのが紙媒体の限界です。電子書籍ならバージョンアップ的に誤字の訂正が容易なのでしょうが、紙だとすでに刷ってしまっているので難しいですね。
当サイトもかなり誤字脱字をやらかしていると思いますが、デジタル媒体なので気がついたらしれっと訂正しています。基本的に朝鮮王朝愛好家のサイトですので、そのあたりはお許しを!
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