馬医1話の時代背景
2017/12/07
イ・ビョンフン監督が演出する韓国時代劇・歴史ドラマ馬医(マイ/ばい:마의)第1話の解説&感想(あらすじ・ネタバレ含む)です。
馬医の主な時代背景は第18代顕宗(ヒョンジョン:현종)の治世です。とてもマイナーな王で時代劇の主役となることはありません。他のドラマなどにもほとんど登場しないため、視聴の際に立ち位置が把握しにくいのではないでしょうか?
今回は第14代宣祖(ソンジョン:선조)まで遡って、簡単に時代背景を把握して行きましょう。
第4代世宗(セジョン:세종)から第14代宣祖(ソンジョン:선조)の途中までの約150年間は、国内で1度反正(パンジョン:반정:クーデター)があったものの外敵から責められることもなく比較的平和な時代が続いていました。
半ば平和ぼけした朝鮮に、1592年の秀吉による朝鮮出兵・壬辰倭乱(イムジンウェラン:임진왜란)と1597年の丁酉再乱(チョンユチェラン:정유재란)という国土のほとんどが蹂躙される戦禍が起きます。宣祖は明との国境の街・義州(ウィジュ)まで逃げ落ち、民を置いて逃げた王に怒った民衆は景福宮(キョンボックン:경복궁)を焼きつくします。
続いて王位についた第15代光海君(クァンヘグン:광해군)は、1623年の仁祖反正(インジョバンジョン:인조반정)により失脚し、最終的に済州島に流刑となります。
この時推戴されて王位についたのが第16代仁祖(インジョ:인조)です。馬医の第1話では彼が王であり、カン・ドジュンが慕っている昭顕世子(ソヒョンセジャ:소현세자)は彼の長男です。
予期せず王位についた仁祖に第14代と同様の不幸が起こります。中原の大国が明(みん)から清(しん)へと変わります。朝鮮は漢民族の国家・明に事大し小中華を標榜していました。けれど、清はオランケ(蛮族)と蔑んでいた女真族が建国した国です。朝鮮は当然ながら従属を拒否します。
不幸な歴史は繰り返されるもので、今度は中原の国家から2度の侵攻を受けます。1627年の丁卯胡乱(チョンミョホラン:정묘호란)と1636年12月の丙子胡乱(ピョンジャホラン:병자호란)です。
この遠征は清朝第2代皇帝ホンタイジによる親征でした。1637年1月30日、降伏を決意した仁祖はホンタイジが居留していた三田渡(サムジョンド:삼전도)へ赴き、額を打ち付けて拝礼する三拝九叩頭(サムベ クゴドゥ:3배 9고두)を行いました。この時に仁祖は額から血を流したと言われています。
これにより、仁祖の長男の昭顕世子(ソヒョンセジャ)と次男の鳳林大君(ポンリム テグン:봉림 대군)等が人質として清で生活することとなりました。第1話は昭顕世子がまさに人質から開放された1645年です。
この昭顕世子が史実としても毒殺を疑われる謎の死を遂げるのですが、実際のところは毒殺かどうかはわかっていません。
ただし、親明の考えに凝り固まった父王・仁祖と臣下には、改革派の昭顕世子は危険分子とみなされていたため、動機が十分すぎる上に、死体が黒く変色していたことからも、毒殺の可能性は高かったと言われています。
第17代の王となったのは、兄の死により世子(セジャ:세자)となった鳳林大君・孝宗(ヒョジョン:효종)でした。兄と同様に清で人質生活を送った彼ですが、屈辱を受けたことにより改革を目指した兄と違い、清への恨みを増幅させました。
彼もまたあまり史劇には出てこない王ですが、清を征伐する北伐(プクバル:북벌)を夢見て計画を立てたものの、わずか11年でその治世を終えてしまいます。
そして、その夢は息子で第18代顕宗(ヒョンジョン:현종)に託されることとなるのですが、顕宗は結局何もすること無く臣下にいいように操られる弱い王のままでした。この反動が息子の第19代粛宗(スクチョン:숙종)による強権発動として具現化していきます。
こうして時系列で見るとわかるように、日本と中国に計4度も蹂躙された朝鮮が、瀕死の重傷からの回復過程にある状況だということがわかると思います。
挿入曲 馬医OST たった一つ(オジク タン ハナ:오직 단 하나) ソヒャン(소향)
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